なぜ人は「分かった」で止まるのか?
マインドセットを学んでいると、
「ああ、なるほど!」
「そういうことだったのか!」
「やっと分かった!」
そんな瞬間があります。
今まで気づかなかった自分の思考のクセが見えてきたり、物事を違う角度から捉えられるようになったり。
これは、とても大切なことです。
でも、ここで少し考えてみてください。
「分かった」ということと、「実際に変わった」ということは、同じなのでしょうか?
今回は、この違いについて考えてみたいと思います。
■ 分かっているのに、また同じことをしてしまう
例えば、
「相手の課題と自分の課題は別」
ということを学んだとします。
説明を聞けば理解できる。
人にも説明できる。
「相手を変えようとしても仕方がない」
ということも、よく分かっています。
ところが、実際に家族が自分の思いどおりに動いてくれないと、
「どうして分かってくれないの?」
「何度言ったら分かるの?」
と、イライラしてしまう。
そして、しばらくしてから、
「あ、また相手を変えようとしていた!」
と気づく。
こんな経験はないでしょうか?
頭では分かっている。
でも、実際の場面になると、以前と同じ反応が出てくる。
これって、どういうことなのでしょう?
・・・・
■ 「知っている」と「できる」は別の能力
少しピアノの話をしてみますね。
例えば、ピアノを弾く時に、
「肩に余計な力を入れない」
ということを学んだとします。
なぜ力を抜いた方がいいのか。
どんな身体の使い方をすると余計な緊張が生まれるのか。
説明を聞いて、頭では理解できた。
でも、いざ難しい曲を弾き始めると、また肩に力が入ってしまう。
これは、決して珍しいことではありません。
なぜでしょう?
それは、
身体の使い方を理解したことと、その使い方が実際にできることは違うからです。
長い間繰り返してきた動きは、簡単には変わりません。
新しい使い方を知っただけでは、いつでも自然にできるとは限らないのです。
マインドセットも、これと似ています。
「相手の課題には踏み込まない」
と知っていても、長い間繰り返してきた反応は、すぐには変わらないことがあります。
つまり、
知識として理解することと、実際の場面で使えるようになることには、距離がある。
ということです。
■ なぜ「分かった」だけでは変わらないのか?
私たちの反応には、これまでの経験や学習によって身についたパターンがあります。
例えば、
子どもの頃から、
「ちゃんとしなさい」
「失敗してはいけません」
と言われ続けてきた人がいたとします。
その人は大人になっても、
「失敗したらどうしよう」
「きちんとやらなければ」
という反応が出やすいかもしれません。
そしてマインドセットを学び、
「失敗してもいいんだ」
と理解した。
でも、実際に失敗しそうになると、やっぱり怖い。
ここで、
「分かったはずなのに、どうして変わらないんだろう?」
と思うかもしれません。
でも、考えてみてください。
何年も繰り返してきた反応が、一度説明を聞いただけで完全に変わるでしょうか?
もちろん、大きな気づきをきっかけに反応が変わることもあります。
でも多くの場合、新しい理解を実際の場面で使いながら、少しずつ別の反応を身につけていく必要があります。
・・・・
■ 「分かった」は、実はゴールではない
ここが今回、一番お伝えしたいところです。
私たちは何かを学ぶと、
「理解できた!」
というところで満足してしまうことがあります。
でも、マインドセットの目的が、知識を増やすことではなく、自分の反応や行動の選択肢を増やすことだとしたら、
「分かった」はゴールではなく、スタートなのです。
例えば、
「人の評価を気にしなくてもいい」
と分かった。
では、実際に人から否定的なことを言われた時、どうでしょう?
以前と同じように落ち込むかもしれません。
それでも構いません。
大切なのは、その後です。
以前なら、
「嫌われた!」
「私はダメなんだ!」
と考え続けていた。
でも今は、
「あ、私は今、嫌われたと思っているんだな」
と気づける。
そして、
「本当に嫌われたという事実はある?」
と確認できる。
さらに、
「相手がどう思うかは相手の問題。私はどうしたい?」
と考えられる。
ここまで来ると、単に知識が増えただけではありません。
学んだことが、実際の反応や行動に使われ始めています。
■ 反応が変わるとは、感情が出なくなることではない
ここも勘違いしやすいところです。
「マインドセットが身についたら、イライラしなくなる」
「不安にならなくなる」
「人の言葉に傷つかなくなる」
そんなふうに思っていませんか?
でも、感情が出ること自体は自然なことです。
腹が立つこともある。
悲しくなることもある。
不安になることもある。
それを全部なくそうとする必要はありません。
では、何が変わるのでしょう?
例えば、以前は誰かの言葉に腹が立つと、すぐに言い返していたとします。
でも今は、
腹が立った。
↓
「あ、今、腹が立っている」
↓
「私は何に反応したんだろう?」
↓
「今、言い返す必要はある?」
↓
「とりあえず今日は何も言わないでおこう」
と、自分で選べるようになった。
腹が立つという最初の感情は、以前と同じかもしれません。
でも、その後が違います。
・・・・
反応が変わるとは、必ずしも最初の感情が消えることではありません。
感情が出た後の、自分の行動や思考の進み方が変わることも、大きな変化なのです。
・・・・
■ 「気づくまでの時間」も変わっていく
もうひとつ、変化を確認するための面白い視点があります。
それは、
自分の反応に気づくまでの時間。
例えば、以前は誰かに嫌なことを言われると、3日間ずっと腹を立てていたとします。
ところが今は、半日くらいで、
「あ、また同じことを考えている」
と気づけるようになった。
さらに経験を重ねると、1時間で気づくこともある。
場合によっては、その場で気づけることもある。
これって、変化していないのでしょうか?
いいえ。
十分に変化しています。
ただし、気づくまでの時間が短ければ短いほど偉い、という話でもありません。
状況によっては、気持ちを整理するために時間が必要なこともあります。
大切なのは、
以前の自分と比べて、反応との付き合い方にどんな違いが生まれているか。
ということです。
■ 知識が増えると、逆に変化が見えなくなることもある
ここからは、少し深いお話です。
マインドセットを学び続けていると、いろいろなことが説明できるようになります。
「これは課題の分離の問題ですね」
「それは思い込みですね」
「事実と解釈が混ざっていますね」
確かに、そうかもしれません。
でも、
説明できることと、自分がその場面で使えることは別です。
例えば、誰かの相談を聞いて、
「それは相手の課題だから、気にしなくていいんですよ」
とアドバイスできる。
ところが、自分の家族のことになると、相手を変えようとしてしまう。
そんなこともあります。
人の問題は客観的に見られるのに、自分の問題になると見えなくなる。
これは不思議なことではありません。
自分にとって感情的な意味が大きい出来事ほど、落ち着いて考えることが難しくなる場合があるからです。
だからこそ、
「私はもう分かっている」
と思った時には、一度こんなふうに確認してみるといいと思います。
「それを、実際の生活で使えている?」
知識の量ではなく、実際の場面での変化を見てみるのです。
・・・・
■ 分かったことを、使えるようにするには?
では、どうすれば理解したことが実際の反応につながるのでしょう?
私は、まず小さな場面で試してみることが大切だと思います。
例えば、
「相手をコントロールしない」
ということを学んだとします。
いきなり大きな問題で実践しようとすると、難しいかもしれません。
でも、日常の小さな場面ならどうでしょう?
家族が自分とは違うやり方で家事をしている。
いつもなら、
「そうじゃなくて、こうした方がいいよ」
と言ってしまう。
そこで一度、
「あ、今、口を出そうとしている」
と気づいてみる。
そして、
「これは本当に私が言う必要のあること?」
と考える。
必要がなければ、何も言わずに見守ってみる。
もちろん、安全や共同生活に関わることなら話し合う必要があります。
でも、単に自分のやり方と違うだけなら、そのままにしてみる。
こういう小さな経験を積み重ねていく。
すると、
「口を出さなくても大丈夫だった」
という新しい経験が増えていきます。
理解したことを、実際の経験につなげていく。
これが、知識を使えるものにしていく練習です。
■ ミニワーク:「分かった」を「使えた」に変える
今回は、今までに学んだことをひとつ選んで、実際の生活と結びつけてみましょう。
① 分かっているのに、できないことは何ですか?
例えば、
「人の評価を気にしなくていい」
「相手の課題には踏み込まない」
「事実と解釈を分ける」
「自分の思考に気づく」
など。
知識としては理解しているのに、実際にはなかなかできないことをひとつ選んでください。
② どんな場面で、以前と同じ反応が出ますか?
できるだけ具体的に書いてみましょう。
例えば、
「家族が私のアドバイスを聞いてくれない時」
「自分の意見を否定された時」
「予定どおりに物事が進まなかった時」
などです。
③ その場面で、実際に何が起きていますか?
ここでは、自分を評価せずに観察してみます。
「私はまだできていない」
ではなく、
「相手にこう言われた時、腹が立って、こう言い返した」
というように、具体的に書きます。
④ 次に同じことが起きたら、何をひとつ変えてみますか?
ここが今回の一番大事なところです。
いきなり完璧に変わろうとしなくて構いません。
例えば、
「すぐに言い返さず、ひと呼吸置いてみる」
「相手の言葉を事実と解釈に分けてみる」
「アドバイスする前に、相手が求めているか確認する」
など。
実際にできそうな、小さな行動をひとつだけ決めてみてください。
⑤ 実際にやってみて、何が違いましたか?
次に似た場面が起きた時、試してみます。
そして、
「できた・できなかった」
だけではなく、
何に気づいたか。
どこが難しかったか。
以前と何が違ったか。
を振り返ってみましょう。
思ったようにできなかったとしても、それは次の練習のための情報になります。
・・・・
■ 「分かった」で終わらないために
マインドセットを学んでいると、知識が増えます。
自分の思考のクセも分かってきます。
人の行動についても、以前より理解できることが増えるかもしれません。
でも、そこで終わってしまうのは、少しもったいないと思うのです。
知識は、持っているだけでも役に立つことがあります。
でも、その知識を実際の生活で使えるようになると、選べる行動が増えていきます。
そして、ここで大切なのは、
「分かっているのにできない自分」を責めないこと。
です。
できなかったら、
「なぜできなかったんだろう?」
と観察してみる。
次は、もう少し小さな場面で試してみる。
必要なら、方法を変えてみる。
その繰り返しです。
マインドセットは、正しい答えを覚えるためのものではありません。
自分の反応を知り、これまでとは違う選択ができるようになるためのもの。
だから、
「分かった!」と思った時こそ、そこからが始まりです。
そして、次に似た場面が起きた時、
「今までと少し違う選択ができた」
そんな経験がひとつ増えたなら、それは知識が実際の生活につながったということなのだと思います。
・・・・
最後に、ひとつだけ質問です。
あなたが「もう分かっている」と思っていることの中で、実際の生活ではまだ使えていないものはありませんか?
もし見つかったら、それは自分を責める材料ではなく、これから試してみることが見つかった、ということなのかもしれませんね😌

